さかだち日記 第12日

2018年8月24日

ゼラチン製のストローで飲めば会話もオブラートに包まれる。

説得されると反発したくなる性格だ。
出来ないだろうと思われようが、自分ができると信じて貫くと何故か結果が出る。
結果自体には全く満足していないのだが、思い起こすとよくもまああの状態でいい結果が出たもんだなと独り言ちる。

巡り合わせとは不思議なもので、あまり役にも立たないような専門的な知識を無駄に覚えたものが、数十年後にとても重要な技術として注目されたりする。
人との再会も同じだ。会うことはないような状況や場所で偶然会ってしまうことも多々ある。
神戸の友人と東京駅の八重洲口で偶然会ったり、札幌のホテルフロントでチェックインしていると東京の友達が横で同じくチェックインしてたりする。
国内だけなら納得、というかそれだけでもレアケースだとは思うのだけれど、海外でしかも10月のシカゴの街中で会ってしまった時には、僕の行動を誰かが監視しているのかと思ったほどだ。

さて、今夜も無事にさかだちナイトが過ぎようとしている。
今日はなかなかタイプが進まない。
これで終わりにしよう。

 

さかだち日記 第11日目

2018年8月23日

エビフライは最初に食べるタイプ。グルテンがなければね。

よく眠れる。
さがたちを始めてから熟睡時間が長い。
朝まで起きない時だってある。
しかも落ち着いて夕方だって迎えられる。
料理のレシピだってじっくり選んで料理ができるようになった。
何かが変わってきた気がする。

給食は中学生までだった。
高校生になると毎日弁当を持って通学だ。
母は料理が苦手だ。通常カレーライスはどこの家庭でも、市販のルーを使えば常識の範囲内の味に仕上がる。
母のカレー、すこぶる不味い。
カレーのルーが混ざり切らないまま、時には味付けをしないままのカレーが食卓に上がる。
今夜はカレーというと普通の家庭で育った子供たちは喜ぶだろうが、僕の場合は憂鬱以外の何物でもない。不味いのだ。

弁当も同じような内容が3年間続いた。
毎日エビフライ。それも冷凍のエビフライが3つ、白米、ソース。以上だ。
飽きるかって?1ヶ月もすぎると自動的に口に運んで咀嚼して飲み込む。作業と変わりない。

もう時効だろう。高校生最初の夏休みの最終日は今でも忘れない。
夏休みも折り返しを過ぎ、二学期も始まろうかとしている日に友達から電話がかかってきた。
現代とは程遠い80年代は、友達とか彼女とかとは固定電話で連絡を取り合うのだ。
飲みに行こうと。
高校一年生の身分にしては小銭を持っていたので、友達4人で居酒屋に飲みにいく。
個人経営の居酒屋で、高校生でも入れてくれる。寛容な時代だった。
友人の一人がミリオタで、酔った勢いでカラオケをいじり出し、何やら選曲している。
全て日本軍絡みの軍歌ばかり。
流石に居酒屋の主人が来て止められたが、その後何を思ったのか腕相撲で勝ったらボトルを一本サービスしてくれるというのだ。
まだまだ子供でロクに金も持っていない高校一年生達は、夢のようなオファーに色めき立ち勝負に挑んだ。
一人目で速攻勝負は決まり、高校一年生の僕たちは喜びトライアングルという焼酎を一本手に入れた。
そして豪快に飲み、軍歌をスピーカーが壊れんばかりに叫び歌う。
結局、つまみ出されてしまった。

消化不足の高校一年生達のパワーはここからが本番だだ。
歩道に駐輪してある自転車を両手で掴み、誰が一番高く遠くまで投げられるかを勝負するは、挙げ句の果てに投げ輪のように歩行者用信号機をターゲットに自転車を引っ掛けだすはの大騒ぎ。
今だったら即捕まるだろう。寛容な社会だった、そう思いたい。
道を挟んだ歩道でタムロしている男達がこちらの騒ぎに気づいて、イチャモンをつけてきた。
酔っ払い同士の喧嘩が始まる。
僕を含め友人達全員、標準以上の筋力を誇り、授業で義務だった柔道のお陰で相手全員を数分で歩道に寝かせてしまった。

三日後、友達から電話が来る。
どおやらあの時酔って倒した相手は、任侠団体の下部組織の下請けのスタッフだったそうだ。
酒を持って詫びを入れに来いということらしい。
友達は酒屋の息子だ。酒はいくらでもある。そう親に黙って棚から日本酒の一升瓶を1本くすねて、挨拶に行く段取りだ。
友達は酒屋の息子のくせして酒が飲めない。
設計士の息子である僕は酒豪だ。建設的な酒豪だ。

二人で「詫び」に行くと、持って来た酒を飲み干すまで帰さないという。
一生懸命、本当に一気に一升の酒を飲み干した。
でも帰してくれない。任侠もへったくれもあったもんじゃない。
高校一年生の体に一升の酒を入れると酔う。とても酔う。
建設的な酒豪の僕は酔った頭で考える。
逃げよう。
走れば捕まらない。走って逃げれば、雨だって避けられるはずだ。
トイレに行くふりをして、しばらく廊下で待つ。
トイレから帰らないと心配だという、わかりやすい演技で友達も廊下に出る。
顔を見合わせた瞬間にダッシュで逃げる。
酔った高校一年生は激しい加速を感じながら全速力で走る。
先週買ってもらったばかりの、ドクターマーチン・エアクッションソールを片足だけ履いてダッシュだ。
近くの公衆電話を探して、バイクの免許を持っている友達に電話する。
昔の高校生は友人達の電話番号を記憶していたのだ。
迎えに来てもらい、ホンダスーパーホーク3に三人またがり逃げるようにして立ち去った。
社会が寛容だったと言い切れないが、僕たちは社会を寛容だと思っていた。

いまでも右太ももの裏にはマフラーで火傷した痕が残っている。
二日酔いを初経験したのは、翌日の始業式の日だった。

 

片足だけでは販売していない
ドクターマーチン

さかだち日記 第10日目

2018年8月22日

ピークハントは自己満足

出張帰りの新幹線。車内は束の間の酒盛りを楽しむ出張族や、ひとり旅のカップ酒の匂いで充満している。東北新幹線、仙台からは1時間半ほどで東京に着いてしまう。

大阪発東京行きでは、居酒屋新幹線の指定席が軒を並べ車内販売が売り切れになる程盛況だが、東北出張の帰りは短時間勝負だ。座ってすぐに隣の席では缶ビールが汽笛代わりに音を鳴らすし、通路を挟んだ席では、キオスク限定の抜け殻のような味の赤ワインをプラカップで乾杯している。時間がなくとも出張帰りは新幹線で一杯が正しい出張族の姿だ。

そんな姿を横目に見て、僕はひとりガラナソーダとナッツで乾杯だ。

さかだちに深いトリガーはないのだが、その一つは冬だ。
冬になると東日本の山岳地域には雪が積もる。そうスノースポーツの季節。
今ではマイナースポーツ一歩手前のスキーやスノーボードは僕にとっては欠かすことの出来ない楽しみ。
季節のピークには、社会的に炎上の的になりやすいバックカントリースキーを週一のペースで楽しんでいる。
一般的に言うと冬山登山。入山・下山届もしなければいけない。

ほんの5分間の滑走時間のために、腰まで雪に埋もれながら1時間ほどスキーを履いたまま登る。
山登りは得意でもないし好きでもない。登頂したからと言って達成感を味わうこともなく、すぐに滑り降りる。新鮮な降りたての雪の表面を掬うように滑る。この感覚、三度の飯よりこの滑走感が大好きなのだ。
そのためには大好きなフォンタナフレッダのバローロ セッラルンガ・ダルバも我慢して大嫌いな持久系トレーニングをしなきゃいけない。

雪が降るこの季節、日本では忘年会とクリスマスで酒まみれになる。
ある年の秋ごろ、僕には珍しく気になる年上の女性がいた。よく一緒に飲むようになってから、気になる存在になり、やがて興味を抱くようになった。
身長は170センチ、日本人としては長身女性だ。長身で細身女性の話し方や飲みっぷりを見ているうちに、すっかり虜になってしまった。

普段自分からは気持ちを伝えないズルい性質が、今回ばかりは、まだ遠目でしか見たことのない年上という美しい山の稜線の魅力に惹かれ積極的になる。
ただ、どうやって行動すればいいのか、何を装備すればいいのか全くわからないまま一緒に過ごす時間は過ぎていく。

12月、年上女性山と一緒にバーで過ごす。年末だねなんて他愛もない会話をしていると流れでクリスマスの話に。
まずい、クリスマスだ。仏教系の保育園で手を煩わせた僕は、強制的にカトリック系の保育園に転園させられて以来、クリスマスにはいい思い出はない。
それでも大人になるとクリスマスを女性と過ごす機会は増えていたが、なにより経験したことがない年上女性山と過ごすクリスマスを想像すると、何故だか幼少期の辛い思い出が蘇ってくる。
バーを出るとゆっくりと歩く。手を繋ぎ歩く。
「ねえ?」
振り向きざまに抱きつかれた。好意的な意味を込めて抱きしめ返す。顔を見合わせる。唇を重ねる・・・

何かが違う。
そう、何か違和感ではない温もりと安心感、そう懐かしさが蘇る。
香りだ。

母親の香りがする。

それ以来、年上山の頂きを目指したことはない。

大好きなワインの一つ
フォンタナフレッダ
バローロ セッラルンガ・ダルバ

 

さかだち日記 第9日目

2018年8月21日

特殊な才能

飲みに行こうと思わなくなった。
人は習慣を大切にする。朝は必ずコーヒーを飲まないと始まらない、右足から靴を履く。毎日同じようなことをし続けると習慣になるようだ。きっと外に出て焼き鳥屋やワインバーに行きたくなっていたのも習慣化されていたからなのか。

朝起きると、時々驚く状態になっている。ダイニングテーブルにはコンビニ弁当の食べ残しや飲み残しが残骸の山になっていたり、キッチンにはホームサイズのアイスの空箱が散らばっていたりする。
飲んで酔うととにかく食べるのが癖になっている。
今でもそれは治っていない。先日は酔った勢いでグルテンアレルギーには厳禁なサンドイッチとコンビニ弁当の食べ残しがベッドの脇に転がっていた。
当然のことながら、蕁麻疹と発熱で起こされた。

酔うと近くの女性を褒めちぎる。
理由はわからないが、思い返すとその女性を美しいと思って話しかけているようだ。
ほめるポイントはその状況に応じて変化する。
顔や身体のパーツだったり、声のトーンだったり。この間は、ため息のつき方が美しいと言っていたし、鼻声だって好きになってしまう。
もはやポジティブを通り越して、大喜利だ。
酔った時の思考プロセスを記録しておきたい。

それでも、最近お気に入りのワシントン州ワインの味だけは覚えている。実に身勝手な性格の脳だ。
Charles Smith ワイナリーはお気に入りの一つだ。
ネーミングもいい。Kung Fu Girl、Boom Boom など醸造家がロックスターのマネージャー経験者だけあってワイン界に珍しくロックな名付け。

人を褒めるのは、良い事ばかりだけではない。
想像もつかない現実を突き付けられることだってあるのだ。そしていつものように深酒は続き記憶は失われる。

朝起きると、目覚めとともに驚きの光景が瞳に突入してくる。
そうか、前の晩また飲みすぎたようだ。なにより覚えていないのだから自分の行動を悔やむことすらできない。
全ての事象や存在、物は評価されている。そう思っていなくとも誰かが評価している。
そんな筈じゃなかったと悔いても、目の前に起きている事象は事実だ。真実なんてクソ喰らえ、どっちにしろ事実という波に拐われてしまう。
誰もが想像もできないような、多彩な理由が飲みすぎた重たい頭の中を、此処ぞとばかりに、汚いスニーカーを履いて駆けずり回る。

「おはよう。熟睡してたみたいね」

誰だ?

ワシントン州のワイン
KUNG FU GIRL

 BOOM BOOM

さかだち日記 第8日目

2018年8月20日

体じゃなくて喉が欲してるだけ

気のせいか肌のシワが少なくなった気がする。
確実に気のせいだろう。ネット情報によるプラシーボ効果。

インターネット。気づけば生活の中心的存在になっていた。
一家に何台もネットにアクセスできるデバイス(装置)が散乱している。
21世紀になるとPCからアクセスしていたインターネットが携帯電話でできるようになった。覚えているだろうか、iモード(あいもーど)。
メールやショートメッセージが流行って、年末年始には皆気が狂ったようにアケオメメールを送り続ける。年賀状を必死になって書きながらアケオメとメールを打つ。メールサーバーがダウンするくらい一斉に送っていた。
挨拶熱心な国民だ。
そんな無駄のように見える行為が経済活動を加速させたりする。

正月になると国民が一斉に酔っ払う。
親戚一族が本家と呼ばれる巣窟に集い、酒を飲む。
僕の叔父は超一流航空旅客サービス会社に勤めていた関係で、とにかく海外出張が多い。正月になると叔父夫婦が当時高級品とされていた陶器に入ったブランデーを持参する。グースだったりブックだったり、錦松梅のお化けのような器もあった。
開封担当は僕。未成年にそんなことさせても全く問題ない社会状況だった。
コルクを開けると、ブランデーのほのかな香りが小学生を酔わす。
さらに一口だけ、舐めさせてくれる。
ビールは泡だけ、ブランデーはお正月にひと舐めだけならお咎めないという不条理なルールが親族にはあったようだ。
社会全体が荒削りで懐が深かったのだろう。

今ではSNSが欠かせない社会にまでなった。
少しでも自慢をするとリア充。社会批判をするとネトウヨ。誰しもが監視し合い、厳しく正しさを求められる。
そんな社会環境のせいか、バーでの酔客に歯止めがきかない場面も多くなった気がする。
なぜか、酔っ払うと許されてしまう唯一の治外法権。バー。
美人とバー飲んでいると、酒パワー全開の男性が激しく問いかけて来る。
「美人ばっかり連れて、バチが当たるぞ!」
バチは当たらない。マイケルジャクソンだってオーランドブルームだって僕なんかよりはるかにモテる。バチは当たらない。

激しく叱責を続けた酔客に、バーのマスターは黙ったまま。
一緒にいる女性も背中を向けて、僕と話をしている。
黙ったまま、ボトルキープしているジャックダニエルズのちょっといいやつ、ジェントルマンジャックをグラスに注ぎ続けるマスター。ボトルが軽くなっていく。

彼女の少し窮屈そうな、正面から見た笑顔も美しい。美しさは優れた才能だ。
バーカウンターからガラス越しに見える道路にタクシーが止まる。
酔客がこちらの分まで払うと聞かないので黙って会釈する。
タクシーが酔客を乗せて去っていくと、マスターも彼女もホッとしたように笑顔が戻った。店全体も空気が澄んだようだ。
ジャックを飲み干した彼女が呟くように言う。
「あの人、元彼なの。というか元婚約者」
才能は美しさだけではないようだ。


大好きなジャック





さかだち日記 第7日目 週の総括

2018年8月19日

酒が無くとも魅力的。

さかだち一週間が過ぎた。
ワインを飲みたい欲求や、焼鳥屋の魅力的な雰囲気が枯渇してすぐに飲んじゃうのかと思ったけど、結構続くもんだ。

グルテンアレルギーでもあるので、食生活はすっかりオーガニックやビーガンのような強いこだわりを持った健康族と勘違いされそうだ。
そんなこだわりは毛頭ない。ハンバーガーだって食べたいし、酔った勢いで豚骨ラーメンだって焼き芋だって食べたい。トランス脂肪酸が入っているかなんて気にする余地もなく食べていた。
グルテンアレルギーが発覚する前の話だが、泥酔した夜の帰り道は豚骨チャーシューラーメンを食べ、ついでにコンビニのカツカレー弁当とサンドイッチを買って自宅で食べて、翌朝満腹感とニンニク臭で起きる。こんな日常を繰り返していた。
蕁麻疹、発熱、下痢、飛行機に乗ると左目の充血、喘息のような咳が数カ月続き挙句の果てに片頭痛だ。
あることでグルテン不耐性を知り、ジョコビッチの本を手に取って熟読。自分がグルテンアレルギーの症状そのものだと知ってグルテンを摂取しない生活を始めたら少しずつ症状が改善して、今は蕁麻疹が時々出る程度まで治まった。
何度も言うけれど、健康オタクでもネット情報を鵜呑みにして非科学的なものを信じるほど浅はかな考えは持たない。
バターはフェッドバターではない、普通のバターだし、コーヒーに入れるなんて気持ち悪いことはしていない。普通にKALDIのコーヒーだ。
簡単に言うと徹底的に自分で調べて結論付けたい性格なので、調べだすと時間が過ぎてもったいないからしないだけだ。
さて、グルテンフリー、ノンアル生活という一見、健康オタクしか入らない領域で一週間を過ごした。
どう変わったのか、何が変わらないのか。じっくり考えてみようと思う。

行動できる時間があきらかに増えた。


酒を飲まないで夜を迎える。ベッドに入るまで散歩だって読書だってブログだって書ける。これには驚いた。
アルコール寄り添い生活では毎夕、6時には飲み始めていた。今年の灼熱を乗り切るためにライムとミント、ラムを買い込みモヒートを作ってはクソ熱い空に乾杯。
ミックスナッツをつまみにモヒート数杯をがぶ飲みしてアイドリング完了。
暑い夏にエンジンもヒートアップ気味だったのだろう。
軽くシャワーを浴びて、駅前のワインバーに散歩がてら入店。
気分直しに泡。フランチャコルタのカデルボスコがお気に入り。
泡2杯、暑い夏は白LE VIGNE DI-ZAMOがリーズナブルで飲みやすい。
最後にミアーニあたりの赤1本かバイザグラスで3杯程度。そして次の店へ。気が付くとベッドで寝ている。誰も止める人なんかいない。喉が渇く、夜中の2時に目が覚める。そこから1時間おきに水を飲む。
酒を飲まない生活になると、6時を過ぎようが日が沈もうが正気のままだ。
何でもやりたい放題。
仕事に使うテキストを深く書き込んだり、3Dのテキストを新たに作ったりしてもいいし、夜、自動車で足利の屋台のコーヒー屋アラジンにだって気軽に行ける。
羽田空港の夜景だって楽しめるのだ。

睡眠が続く。


ノンアルでベッドに入ると、朝まで起きない。
普通のことかもしれないが、気が付くと朝5時だ。
毎晩、歯ぎしり対策のマウスピースを口の中に突っ込んで寝ているのだけれど、起き抜けのうわ顎の筋肉痛が無くなった。酒を飲むと、そんなに強く歯ぎしりしていたのかと思うと正直怖くなった。

食事の量が減った


僕はとにかく食べる。自宅で手巻き寿司をするなら少なくとも五合の米を炊かないと足らない。一人前でその量だ。
酩酊した状態だともっと恐ろしいことになる。ラーメン大盛、コンビニ弁当二つは食べていた。しかもその前にパスタを食べているのだ。
グルテンアレルギーを発症するので基本は自炊。
サラダを作るにしたってドレッシングから自分で作る。蕎麦が食べたくなったら200km離れた静岡のそば半に行くか、自分でそばつゆから作るかの二択。
どっちにしても、食べ残しはなかったのだけれど、今はアルコール時代の半分からちょっと程度で満足する。アルコールを摂ると食欲が増進するのはウソではなさそうだ。

体重が減る傾向に


8月に入ってからスノーシーズンに向けて無酸素系と有酸素系のトレーニングを始めている。もともと人並外れた瞬発力のある筋肉量が多いので、負荷の高いトレーニングはごく少な目。スロー腹筋20回3セット。シリコーンゴムでの上半身トレーニング、スロースクワット30回2セット程度で筋肉が大きくなってしまう。
週に3回程度のゴルフラウンドの内1回は晴山ゴルフ場でフルセットのゴルフバッグを担いてラウンド。散歩代わりにちょうどいい。
アルコール時代はこれでも全く体重が減少しない。気が付くと2キロも増加していることだって普通にある。
ノンアル1週間、二日目に体重が減った。何もしていないのに体重が減ったのは初体験。三日目もそれが続き、知らずと2.5㎏ほど減った。
今回のシーズン前トレーニングは減量もするので糖質オフダイエットをしていたのだが、全くと言っていいほど減らなくて困っていた。無制限にノングルテンアルコールを飲んでいたのが理由なのかは分からない。
正直言って嬉しい。憧れは細マッチョだ。

変わらなかった事
肌がきれいにはなっていない。


ググってみたら、酒をやめると肌がきれいになったりするらしいが、一週間経過した現在、そんな魅力的な変化は兆候ですら感じない。以前と変わらぬ、荒れて日焼けした肌が健在だ。
敏感にはなっているようだ。先週、さがだちを始めた二日目は新潟の瀬波温泉のビーチで遊んだ。日焼けに対するヒリヒリ感がいつもより強く感じた。まあ根拠はない。

頭はよくなっていない


実際、アルコールの過剰摂取で海馬が縮小することは酒好きには常識。だと思う。
アルコールが適量だろうが大量だろうが関係なく、酒を飲めば脳は縮小するのだ。
一週間でどれだけ脳の縮小が止まったのか、それともシナプスの数が増えてより妄想力がパワーアップしたのかは分からないが、いまだにブラックホールの淵で、重力変化が起きている根拠を計算式を用いて証明ができない自分の思考を考えると、頭はよくなっていない。少なくとも博士とは呼ばれてはいない。

禁断症状


2000年の夏。7月1日。それまで一日20本以上吸っていたタバコをやめた。
一週間目。毎晩のようにのどの渇きと共にうなされては起き、水をがぶ飲みしてタバコを吸いたい欲求を紛らせた。1カ月経過後、毎晩タバコを吸う夢を見ては後悔しながら起床した。半年後、居酒屋で先輩たちが美味しそうに吸うたばこの煙が恋しくて仕方がなかった。
さかだちには激しい禁断症状なんてないのか?
それともこれから訪れるビッグウェーブ前、静かな引き波の砂浜にたたずんでいるだけなのか?
飲みたい衝動に駆られて、結局ダメだったのね。肝心なところでパット外すのね、なんて言われずに済んでいる。
それより、夜が楽しみになっている。
読みたい本がないから読書はしないけれど、衰えた語彙力を補おうと色々な本を物色したり、もともと好きな料理も新しいグルテンフリーレシピを作っては調理したりと、たった一週間だけも楽しみが増えている。秋に向けて編み物でも始めそうな勢いだ。

まだ一週間だけれど、どうやら酒の無い人生も悲観的な部分は全くなく、今まで思っていた酒とバラの人生は、ソーダストリームの炭酸水でも遜色なさそうだと気付き始めた。
いつまで続くかは分からないし、頑なに断酒を続けようとも思っていない。
あの雰囲気を酒と共に楽しみたいし、いくつかストックしてあるワインだって僕を待っているに違いない。ワインを通じて知り合った友人たちとも、馬鹿みたいに騒ぎたい。

さかだち日記は明日も続く。

日記に登場したワイン

フランチャコルタ ブリュット キュヴェプレステージカデルボスコ



LE VIGNE DI-ZAMO レ ヴィーニェ ディ ザモ


ミアーニ ロッソ

さかだち日記 第5日目

涼しくなった東京出張の帰りが不安。

21時、酒好きにはたまらない渋谷を息を止めて駅に駆け込む。渋谷駅最果てのホームで埼京線に乗り込むと休暇明けの疲れた通勤者に混じって電車に揺られる。

赤羽でドアが開くと、遠くから焼き鳥を炭火で焼く香りが誘う。飲みましょうと。

このまま、無事に関東のラストフロンティア高崎まで、さかだちサバイバー出来るか不安だ。

焼き鳥が嫌いな酒好きはいないだろう。

目を閉じたまま歩いても、そこが焼鳥屋の前だとわかる魅力的なあのジャパニーズBBQの香り。我慢できない。

成吉思汗と同じ作用なのかなと考えるが、確実に異なる。成吉思汗特有の忙しさが無い。

頼む、飲む、喰う。という作法が焼鳥屋ルーティーンだ。

一人でfacebookを見ながら生ビールを飲んでもいいし、友達と暇つぶしの会話をツマミに飲んだっていい。好きに飲めばいいんだ。

美味い焼鳥屋を知っている。田舎には無い美味い焼鳥。

少し変わり者の主人が面白い。

一人でひっそりと飲んでいると、稀に個性的な客を見る。店に入って何も頼まずにメニューを凝視してすぐ立ち去る女。去り際にに塩を撒かれていた。

ネタ一つ頼んでは、ジーッと焼き場を監視して、運ばれた焼鳥をじっくり観察する焼鳥オタク。早く食え。

その日は飲み付けない日本酒を五合は空けていた。横には見かけた女性が座ってタバコを吸っている。文句は言えない。店内は全席喫煙だ。

タバコ女とは疎遠にしたいが、美人には寄り添いたい。煙も匂いも嫌いだが、横顔はずっと見ていたい。

ジレンマは加速する。

6杯目の冷酒が二つ運ばれる。誰が注文したんだ。タバコ女と乾杯!くわえタバコでグラスを合わせるな。

横顔も、肩から細く薄っすらと柔らかい脂肪に包まれた長く伸びた腕も美しい。絶品だ。

寄り添われる。心臓がスキップして喜ぶ。

タバコ女がタバコを吸う。鼻腔が拒絶する。

7杯目。お互いにしなだれ掛かる。

頬にタバコ女の唇の感触を感じる。心臓が躍動する。

右からのタバコ臭が鼻腔を超えてダイレクトに脳に刺さる。吐きそうだ。

顔一面に、砂が投げつけられたような痛みが襲う。追いかけるように目に痛みが走る、瞼を開けていられない。

「帰れ!」

塩撒かれたのは、後にも先にもこの一回だけだ。

自信はないが。