さかだち日記 第24日

2018年9月5日

樽の香りだろうがベリーだろうが、翌日は覚えちゃいない

栃木に行った帰りに酒屋に立ち寄った。全国でも有名な酒屋というのでもないのだが、僕のようなグルテンアレルギーで酒飲みなら、もしかしたら知っているかもしれない。
栃木県栃木市の早川酒店に寄って、グルテンフリービール「OMISSION」を買った。
別に飲む予定はないが、以前アマゾンで見かけたので「現地」で調達を試みた。

事前に電話をしておいて正解。酒屋の店主は営業中にほとんど店にはいない。飲食店やローカル食品店への営業と配達で忙しいのだ。
栃木市に初めて足を、というかタイヤを踏み入れた。蔵の街としてPRしているようで街全体の雰囲気は全般的に日本酒のイメージ。
酒屋も日本酒の雰囲気。

電話で頼んでおいたビールと告げるとレジの横に袋に入って用意してあった。
OMISSIONのビールはグルテンフリービールジャンルとしてはグルテン除去ビール。
ビールを作る過程でグルテンを除去するタイプのビールだ。
検査結果はロットごとにHPに公開されているので安心。

買ったはいいが、飲むタミングが難しい。
いつ飲もう、誰と飲もう。

ずいぶん前だが、まだワインをこれほどまで飲んでいなかった頃、バーの常連だった僕はジャックダニエルズを毎週末になると煽っていた。
今ではもう長い付き合いになっているバーアスリで金曜の夜はジャックで酔っていたのだ。いろんな理由があったがそれは後ほど。

バー好きはバーに集まる。当然の事だがイケてる女性経営者もバーに集まる。
ウィスキー系が好きな連中が集まると、プレミアムウィスキーの話題で盛り上がる。
丁度ジャパニーズウィスキーが世界的に注目を集めるようになった時期、酒好きなオーナーが、酒好きにしか響かないナイスアイディアを思いつく。
「一人1万円ずつ出し合って例のプレミアムウィスキーを10人で楽しもう」
いくつものアイディアを提示されたが、儲けなしのプランは今回が初めてだ。
「いいね~。やろうやろう」
まだ、この関東のラストフロンティア高崎に出戻り移住していない、東京在住だった僕の役目は、参加することに加えて、事前に新宿のハンズでメスシリンダーとピペット(スポイト)を調達してくるお使いだ。

メスシリンダーは当然のことながら750mlを10等分するための計測機器。ピペットはウィスキーボトルからきっちり等分できるように微調整が必要だとなったからだ。
どちらも高精度が要求されるので、ガラス製のお高めなものを調達。
バーのオーナーはウィスキーテイスティング用の定番グラスを10脚用意。
いつにない張り切りように二人は盛り上がっていた。
盛り上がると、尋常ではない位に細かい点が気になる二人。
プレミアムウィスキー調達ひと月前から、空調の温度やトイレのお香をいつから排除するだとか、全く無計画でジャックをストレートで3杯ひっかけた冴えわたる頭脳で思いつくものすべてを話し合う。そして繰り返す。

酔っ払いが集まった当日、いつもはビールやら泡やらを引っかけて登場するメンバーが、1万円を握りしめて素面でドアを開けカウンターの定位置のスツールに腰を落ち着ける。
雰囲気はモゾモゾしているのに、異様に目が座っている。
早く飲みたいのだ。

酔っ払いの注目の的であるプレミアムウィスキーはカウンターの壁に仕組んだボトル棚の中央に祭られている。もう七福神が吹っ飛ぶくらいに神々しい。
カウンターにテイスティンググラスが10脚並べられ、10万円のプレミアムウィスキーが神棚、いやボトル棚からカウンターに降臨する。
女性4人にオーナを含めた男性6人は、口々に小さな呻き声ともとれる歓声を上げる

さて分配だ。協賛金の見返りはたった75mlのアルコール飲料だ。
僕とオーナーはこの日のために、何度も何度もプレミアムウィスキーに見立てた、空きビンに詰めた水道水をメスシリンダーとピペットでテイスティンググラスに注ぐ練習を重ねたのだ。
カウンターに置かれたプレミアムウィスキーのボトルに間接照明の明かりが注ぐ。酔ってない意識の中で、美意識の表現を知らない脳が一生懸命に称賛の言葉を探す。
見つからない、そう言葉が見つからないのだ。それより早く飲みたいと脳が叫ぶ。
「早く1万円を一気飲みさせろ」そう脳から所在の見当たらない心に強く指令が届く。

練習を重ねた手つきとは思えない落ち着きのない仕草でオーナーがプレミアムウィスキーの封を切る。
今でいう「開封の犠」だろう。
それより早く開けろ、高級ウィスキーのために調達した超精密ガラス製メスシリンダーに注げ。
本人も早く飲みたいのだろう、ピペットの出番がほとんどない位きっちり正確に、テイスティンググラスに75mlの液体が注がれた。

異様に緊張した面持ちで乾杯する、すぐに鼻をグラスに近づける。
香りがする。そうあのシェリー樽の香りだ。
一度も見たことはないが、きっとシェリー樽だ。ところでシェリー酒の工程を知らない。そんなの構うことか、バーボン樽を使っていたとしてもシェリー樽にしておいてほしい。貧相な知識がシェリー樽を求めているのだ。

一気に飲みたい。でもテイスティンググラスの傾きを手首と鼻がしらが邪魔をする。
もう一度香りを嗅ぐ。いい香りだ。
全員が同じように香りを嗅いでは呻き、そして嗅ぐ。その繰り返しだ。
いい加減飽きてきたので、飲む。アルコールだ。ウィスキーだ。
半分飲んで、水で割る。そうすると味わいがわかるとインターネットに書いてあったから全員が水で割って飲む。トワイスアップと言うやつだ。知識はインターネットだ。
30分で飲み終わる。そして貧相な発想の僕はテイスティンググラスにそのままジャックダニエルズを注ぐ。きっと味が変わるはずだ。
じっくり匂いを嗅いで飲み込む。

いつもの味だ。

そうやって1万円を大切にしていた頃が懐かしい。
いまでは日常的に数万円のワインを飲んでしまうほど感覚が変化してしまった。
まあ、どっちにしても忘れてしまうので、明日の事を考えよう。


そんな貴重な体験を楽しむバーは
Bar ASLI 

グルテンフリービールも結構うまい
オミッション

何年物だったかも覚えていない

サントリー響

今ではこんなのを普通に飲んでる

クインタレッリ