さかだち日記 第1日目

昨日から酒をやめている。
そう、酒断ち。
中島らも氏が生前に書いていた「さかだち日記」を真似ているわけではないけれど、ちょうどいい機会だし、飲まないで夜を過ごせた心境も、飲まずにいられないまま過ごす夜も、飲んでしまって気づいた朝の心境もブログに残しておこうと、しっかり者風の意志の弱さを露呈した事を書いてもいいんじゃないか、いいんだよという事でタイプを始める。
テーマを決めたしっかり者ブログは、グルテンフリーとかドローンとかで賢く書いているので、こんな雑でどうしようもなくて、表現が昭和バブルでも許されて、結局バブルから浮かんでくるのが、ボージョレーとかバーボンとか酒のことに結びつけた隙に酒飲み行こうかなぁ、とりあえずTシャツだけでも着替えとくかと行動しそうになるところが恐ろしくアルコールに寄り添いすぎた半生なんだと、自分でも若干焦り気味な状態で酒を断とうと、少なくとも飲むのは月に一度程度にしようと考えた経緯の最終部分だ。

さて、2018年8月11日土曜日の晩を最後に、日常的になっていた飲酒行動をやめようと決めた。
最初から経緯を説明しようなんて考えても酒を飲み始めて30年以上、それすら覚えていない。酒を飲むと記憶が失われてしまう晩なんて何十回も経験しているし、そんな昔のことを思い出して、魅力的で端麗な文章にまとめてみたって自分だけ悦に浸って、無駄にワインバーで気取って話したくなるだけなのでしない。
ああ、また酒だ。
酒断ちの逆立ちはしたくないので、どうにかノンアルの晩を過ごしながら、今までのお酒にまつわる失敗した話も、不思議と女性から慕われた話とかを赤裸々にフィクションで書いてしまおう。

昨晩はよし飲むのやめちゃえとふて寝してしまったので朝が来た。
今日は新潟で一晩過ごす、どんな理由でも新潟のオークラに宿泊だよ。アルコール無くたってオークラに泊まれるなんて知らなかった、早く教えて欲しかった。
しかもグルテンアレルギーという日本のアレルギー業界でもトップマイナーのアレルギーを常備しているので、小麦抜きでアルコール抜きとなると外食の選択に困らない、そうセブンイレブンのBIGポークフランクくらいしかない。
ちょっと待てよ、そういえば居住地区群馬県高崎市で大繁盛した成吉思汗のお店が新潟でもオープンしているはずだ。
成吉思汗はグルテンフリーではない。そう醤油に小麦が含まれているしサイドメニューだって気を抜けない。小麦抜けないから気が抜けない。
成吉思汗いし田は二店舗。高崎ではマイナーな成吉思汗をヒットさせた店が一店舗目。
びっくりするくらいプリンがうまい。そう、創業者は有名なパティシエなのでプリンがうまい、それ以上に成吉思汗がすこぶる旨い。
羊の肉を焼くだけ。焼くだけなのに成吉思汗の聖地札幌の有名店を足蹴にしてしまうくらい旨い。
秘密を探る暇がない、一皿目を鍋に乗せ程なくして食べる。ガツガツ食べる。
食べてる途中にハッとした不安がよぎる。常に効率的に考えているようで都合よく考えているアルコール脳がグレープフルーツサワーの進行具合と肉の消費具合をピッタリと合わせようと、もう一皿追加。そしてサワー、一皿、サワーと成吉思汗循環器がスタートする。
決定打はタレをわざわざグルテンフリー醤油で作ってくれて、アルコール類も考えて出してくれる気遣い。札幌、いや全国の成吉思汗のお店でグルテンフリー対応できるお店があるだろうか。ない、高崎の成吉思汗いし田しかない。いや、なかった。

そこで新潟に泊まる。
グルフリ醤油を持参して古町を散策する勇気も、グルフリが見つからず失意を抱えてノンアルで手ぶらのままホテルの部屋に帰る頑なな意志も持ち合わせていない。
そうだ、思い切って高級寿司店にでも行こうか、いや高級寿司店に入って
「大将、こちらのシャリは穀物酢使ってないよね? いや米酢だって醸造アルコール使ってないやつだね?」
聞けない、運転手付きのベントレーで来ていないので聞けない。

困った時のお友達データベースFacebookを思いだす。
石田くん、確か新潟で成吉思汗店を開店させたよな、そうだわがまま言える店が新潟にもあるじゃないか、ベントレーなんて乗る必要無いんだよ、乗ったことないけれど。

しかも飲食代の食より飲が上回る成績を更新し続けているのに、ノンアルで言ってもいいのだろうか。不安より先にメッセンジャーをタップする指が早かった。そう、なんでもタップすれば解決する世の中なんだ。タップすればビールだって出てくる。
今日は飲まないぞ、今日も飲まないぞ、僕は意志が強いんだ、どんなに美人でも酔った勢いで抱きつかれても好きになんかならないぞ、よし行くぞ、ノンアル成吉思汗に挑戦だ。

旨い、旨い成吉思汗が旨い。しかもブルゴーニュとかロンバルディアとかバルバレスコとかが昔のビジネスクラスくらいのリクライニングで寝かされた特注セラーの隣に座らせてくれるじゃないか。
今日はどこの産地にしようか、そうだ福建省にしよう。烏龍で行こう。
焼く、飲む、焼く焼く焼く、飲む、烏龍茶を飲む。
コメも食べる、烏龍茶を飲む。
そして満腹になる。

万代橋を無事渡り終えてチェックインしたオークラの部屋は間違って喫煙室だった。

成吉思汗いし田 新潟店