さかだち日記 第8日目

2018年8月20日

体じゃなくて喉が欲してるだけ

気のせいか肌のシワが少なくなった気がする。
確実に気のせいだろう。ネット情報によるプラシーボ効果。

インターネット。気づけば生活の中心的存在になっていた。
一家に何台もネットにアクセスできるデバイス(装置)が散乱している。
21世紀になるとPCからアクセスしていたインターネットが携帯電話でできるようになった。覚えているだろうか、iモード(あいもーど)。
メールやショートメッセージが流行って、年末年始には皆気が狂ったようにアケオメメールを送り続ける。年賀状を必死になって書きながらアケオメとメールを打つ。メールサーバーがダウンするくらい一斉に送っていた。
挨拶熱心な国民だ。
そんな無駄のように見える行為が経済活動を加速させたりする。

正月になると国民が一斉に酔っ払う。
親戚一族が本家と呼ばれる巣窟に集い、酒を飲む。
僕の叔父は超一流航空旅客サービス会社に勤めていた関係で、とにかく海外出張が多い。正月になると叔父夫婦が当時高級品とされていた陶器に入ったブランデーを持参する。グースだったりブックだったり、錦松梅のお化けのような器もあった。
開封担当は僕。未成年にそんなことさせても全く問題ない社会状況だった。
コルクを開けると、ブランデーのほのかな香りが小学生を酔わす。
さらに一口だけ、舐めさせてくれる。
ビールは泡だけ、ブランデーはお正月にひと舐めだけならお咎めないという不条理なルールが親族にはあったようだ。
社会全体が荒削りで懐が深かったのだろう。

今ではSNSが欠かせない社会にまでなった。
少しでも自慢をするとリア充。社会批判をするとネトウヨ。誰しもが監視し合い、厳しく正しさを求められる。
そんな社会環境のせいか、バーでの酔客に歯止めがきかない場面も多くなった気がする。
なぜか、酔っ払うと許されてしまう唯一の治外法権。バー。
美人とバー飲んでいると、酒パワー全開の男性が激しく問いかけて来る。
「美人ばっかり連れて、バチが当たるぞ!」
バチは当たらない。マイケルジャクソンだってオーランドブルームだって僕なんかよりはるかにモテる。バチは当たらない。

激しく叱責を続けた酔客に、バーのマスターは黙ったまま。
一緒にいる女性も背中を向けて、僕と話をしている。
黙ったまま、ボトルキープしているジャックダニエルズのちょっといいやつ、ジェントルマンジャックをグラスに注ぎ続けるマスター。ボトルが軽くなっていく。

彼女の少し窮屈そうな、正面から見た笑顔も美しい。美しさは優れた才能だ。
バーカウンターからガラス越しに見える道路にタクシーが止まる。
酔客がこちらの分まで払うと聞かないので黙って会釈する。
タクシーが酔客を乗せて去っていくと、マスターも彼女もホッとしたように笑顔が戻った。店全体も空気が澄んだようだ。
ジャックを飲み干した彼女が呟くように言う。
「あの人、元彼なの。というか元婚約者」
才能は美しさだけではないようだ。


大好きなジャック