さかだち日記 第9日目

2018年8月21日

特殊な才能

飲みに行こうと思わなくなった。
人は習慣を大切にする。朝は必ずコーヒーを飲まないと始まらない、右足から靴を履く。毎日同じようなことをし続けると習慣になるようだ。きっと外に出て焼き鳥屋やワインバーに行きたくなっていたのも習慣化されていたからなのか。

朝起きると、時々驚く状態になっている。ダイニングテーブルにはコンビニ弁当の食べ残しや飲み残しが残骸の山になっていたり、キッチンにはホームサイズのアイスの空箱が散らばっていたりする。
飲んで酔うととにかく食べるのが癖になっている。
今でもそれは治っていない。先日は酔った勢いでグルテンアレルギーには厳禁なサンドイッチとコンビニ弁当の食べ残しがベッドの脇に転がっていた。
当然のことながら、蕁麻疹と発熱で起こされた。

酔うと近くの女性を褒めちぎる。
理由はわからないが、思い返すとその女性を美しいと思って話しかけているようだ。
ほめるポイントはその状況に応じて変化する。
顔や身体のパーツだったり、声のトーンだったり。この間は、ため息のつき方が美しいと言っていたし、鼻声だって好きになってしまう。
もはやポジティブを通り越して、大喜利だ。
酔った時の思考プロセスを記録しておきたい。

それでも、最近お気に入りのワシントン州ワインの味だけは覚えている。実に身勝手な性格の脳だ。
Charles Smith ワイナリーはお気に入りの一つだ。
ネーミングもいい。Kung Fu Girl、Boom Boom など醸造家がロックスターのマネージャー経験者だけあってワイン界に珍しくロックな名付け。

人を褒めるのは、良い事ばかりだけではない。
想像もつかない現実を突き付けられることだってあるのだ。そしていつものように深酒は続き記憶は失われる。

朝起きると、目覚めとともに驚きの光景が瞳に突入してくる。
そうか、前の晩また飲みすぎたようだ。なにより覚えていないのだから自分の行動を悔やむことすらできない。
全ての事象や存在、物は評価されている。そう思っていなくとも誰かが評価している。
そんな筈じゃなかったと悔いても、目の前に起きている事象は事実だ。真実なんてクソ喰らえ、どっちにしろ事実という波に拐われてしまう。
誰もが想像もできないような、多彩な理由が飲みすぎた重たい頭の中を、此処ぞとばかりに、汚いスニーカーを履いて駆けずり回る。

「おはよう。熟睡してたみたいね」

誰だ?

ワシントン州のワイン
KUNG FU GIRL

 BOOM BOOM